・荻原浩『神様からひと言』光文社文庫

「ああ、くそ。なんだこりゃあ!」
この本の解説に同じことが書いてありますが、読み終えた後そんな気持ちになります。

俺が始めて出逢った荻原作品がこの『神様からひと言』でした。
2006年夏現在では本屋でたまに山積みされているので、見かけたことのある方もいるかもしれません。


おそらくこれは「サラリーマン小説」というやつで、ざっくばらんに言ってしまえば安定した生活資金の供給を人質に耐えがたきを耐える人間を描く物語です。
広告業界をクビになった主人公が、パック麺の会社に販促系の職種で再就職するところから始まります。

プライベートでは数ヶ月前に恋人に逃げられ、再就職先では上司とうまくいかずに僻地へ飛ばされる。
苦難の日々も客観的に見るとそれなりにユーモラスで、分厚い文庫であるにも関わらず長さは感じさせない文章力があります。


クライマックスへ収束していくあのカタルシス。
そして最後のひと言。やられた、と思いました。

そのひと言を立ち読みしようなどとは決して思わないで下さい。特にあなたが勤め人で、会社に対して上司に対して理不尽な憤りを感じたことのある人間なら、気楽に生きることを忘れかけてしまうような状況なら、このひと言はとてもとても素晴らしい言葉です。出逢いがたいひと言です。
それも、突然ひと言に出逢っても駄目で、長い物語の末に出逢うことに意味があるのです。


小説を読んで久しぶりにここまでのカタルシスを得た、と思える作品でした。
もちろん最後のひと言を意識し過ぎないほうが良いです。人生は死に様が確かに肝心だ、とは思うもののそこまでの道程そのものが最後をより際だたせてくれるのですから。

俺はこの物語に触れて「生きよう」と思いました。

2006.8.19(土)記